遠い世界
共犯者
政庁にも程近い、東京租界の中でも一等地にあるビルに、爆破予告が届けられたのは、クロヴィス宛の予告状が届けれらのと、ほぼ同じ頃だった。
しかし、爆破予告を送りつけられたにもかかわらず、そのビルの管理会社からは、なんの通報も受けていない。
ゼロからの予告状によって、軍が動いて、初めてそのビルへの「爆破予告」を、軍部が知ることとなった。
通報しなかったと言うことは、「なにか疚しいことでもあるのだろうか」と、ジェレミアは首を傾げる。
しかし、そのビルの持ち主である製薬会社は、ブリタニアの貴族の所有する関連企業でもあったし、いろいろと調べてみても、怪しむべきところは、何も見つからなかった。
ただ、気になったのは、その企業がここ数年で急成長を遂げたことにある。
調べてみれば、元々は、倒産しかけた小さな製薬会社を、ブリタニア軍がこの地を占領したのと期を同じくして、ブリタニアの貴族が買収したものだということは、すぐにわかった。
同じような境遇の企業は、この租界には山ほどある。
大企業の傘下に入ることで、資金が潤沢になり、小さな会社が急成長をすることも、ないとは限らない。
だから、特別に不審な点があったわけではなかった。
―――なぜ、ゼロはこの企業を狙っているのだろうか?
個人的な恨みでもあるのだろうか、と、ジェレミアは疑問を浮かべる。
しかしそれでは、納得がいかない。
企業に対する恨みなら、わざわざクロヴィス宛に、予告状を送りつけたりはしないだろう。
やはり、なにか他の目的があると、考えた方が筋が通る。
場所が政庁からも目と鼻の先にある建物だけに、そこを足がかりにして、なにかを仕掛けてくるのではと、考えられないこともない。
―――あるいは、そこは囮か・・・?
その建物に注意を集中させておいて、まったく違う場所から、政庁に向けて、テロを仕掛けてくることも、予想できる。
ジェレミアの思考は目まぐるしく巡った。
現場に何度か足を運び、建物の立地や構造を、こと細かに確認して、ジェレミアは途方に暮れる。
もしそこがダミーだった場合、警戒する対象となる建物が多すぎるのだ。
その全てに警備網を敷くことは、不可能ではなかったが、完璧なものにするには人手が足りなすぎる。
どうしても、手薄になる場所ができてしまうのだ。
それを考えると、ゼロの予告状はそれが狙いなのかもしれないと、思えて仕方ない。
政庁を中心に半径一キロ以内を、完全封鎖することも検討されてはいるが、たった一人のテロリストの為に、そこまでするのは、政権の威信に関わる問題だ。
それに、予告の日は、人手の多い日曜日である。
租界の中心部を完全封鎖することによって、街中は混乱が予想された。
それだけ大規模な警備網を敷いて、万が一にでも、ゼロに出し抜かれることがあっては、やはりそれも威信に関わる問題だった。
できれば、秘密裏に事を進めたいと言う思惑があるのことは、隠しようのない事実だった。
幸いにも、五月蝿いマスコミには、ゼロの爆破予告のことは、まだ嗅ぎつけられていない。
対象となる建物の周りを警備する布陣を、念入りに確認するジェレミアは、未だその明確な目的がわからずに、苛立っていた。
今しも、何かを報告しに来た、部下らしい男を怒鳴りつけているジェレミアのその姿を、人混みの中から、ルルーシュはこっそりと窺っている。
今日のルルーシュは、学園での少女の姿ではない。
素顔を隠すように、帽子を目深に被った少年は、小さく舌打ちをして、雑踏の中に姿を消した。
「なんであいつが現場で陣頭指揮を執っているんだ!?」
深夜遅くの学園内の女子寮の自室で、ルルーシュは携帯相手に、不機嫌を露にしていた。
「あいつとは、ジェレミアだ!今日はたまたま男の恰好をしていたから、気づかれなかったが、俺はあいつに顔を知られているんだぞ!?」
ルルーシュの声は低かったが、明らかな焦りと怒りが、含まれている。
「お前知っていたんだろう?なぜ言わなかった!?これでは迂闊に近寄れないじゃないか!」
だからと言って、今回の計画を取り止めにするつもりは、ルルーシュにはない。
「そっちの仕込みは終わっているんだろうな?」
念のために、電話の相手に確認をすると、ルルーシュの期待通りの返事が返されたのだろう。
溜息を吐きながらも、ルルーシュの声には落ち着きが戻っていた。
「ああ、わかった。あとは当日を待つばかりだ・・・。くれぐれもばれないように、注意しろよ?」
相手に念を押して、ルルーシュは、通話を終わらせると、手にしていた携帯を机の上に放り投げた。
そして、忌忌しそうに顔を顰める。
こんなことになるのなら、あの日ジェレミアをからかうのではなかったと、僅かばかりに、自分の短慮を後悔した。